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2022年12月8日木曜日

McCarthy

※Part2(Part1からの続き)

この頃、バンドはこれ以上の成果は望めないと感じ始めており、解散もそう遠くない時期だった。しかし、それでも彼らは1990年4月に最後のアルバムとなる"Banking, Violence And The Inner Life Today"をリリースする。この頃、バンドにはフランスでのツアー中にティムと知り合ったファンのレティシア・サディエールも加わっていた。彼らはカップルになり、彼女は彼のバンドで歌うようになった。"Banking, Violence..."では、プロダクションがさらに洗練されたものになった。プロデューサーのケヴィン・ハリスはバンドと協力し、彼らの歌に完璧にフィットするサウンドを作り上げることに成功した。このアルバムではバンドがソングライティングで大きな一歩を踏み出したこともわかった。曲のタイトルが非常に長くなり("I'm In The Side Of Mankind As Much As The Next Man"や"Tomorrow The Stock Exchange Will Be The Human Race"など)、曲の長さも長くなっている。多くの曲は4分以上あり、これはバンド初期には想像もできなかったことだ。マッカーシーの最後のシングル"Get A Knife Between Your Teeth"もこのアルバムに収録されているが、この曲はこの時代らしいプロダクションの曲である。当時はハッピー・マンデーズやストーン・ローゼズが大人気だった時代で、マッカーシーはこの1曲のみ、バギー・ドラム、ワウワウ・ギターなど、シーンの一端を担うマッドチェスター・ウェーブに参加したのである。ヒットシングルを狙ったのかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし、あまりうまくいかず、その直後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでの最後のギグの後(マルコムによれば、これは単なる偶然だったらしい)、バンドは解散を決意した。

ティムとレティシアはステレオラブを結成し、自分たちのレーベル、デュオフォニックを立ち上げた。このレーベルは、ステレオラブのほぼすべてのレコードと同様に、ヘルツフェルドの2枚のレコード(7インチシングルと10インチミニアルバム)もリリースしている。そのヘルツフェルドというペンネームの背後には他ならぬマルコム・エデンがいたのである。

「ヘルツフェルドのレコードはマッカーシーのレコードよりももっとひどい録音だった。ギターだけでなくキーボードも使おうとしていた。でも、それらはあまりダンス向きではなかった。結局はマッカーシーとそんなに違いはなかったよ。」

マッカーシーの解散についての記事読むと、いつも「無視されるのに疲れた」と書かれているがマルコムによるとそれは解散した理由の全ではないらしい。

「他のメンバーならもうちょっと長く続けていたと思う。でも僕はやりたくなかったんだ。当時はオーディエンスも曲ももう限界だという印象があったし、前進しているとは感じられなかった。当然、そのまま続けていくこともできただろうけど、それは酷なことだし、それに僕たちの間に緊張感はなかったけど、実は最後のツアーでレティシアが多少なりともグループに加わったことでそれまでの結束が少し崩れてしまったんだ。」(訳者注:ビートルズを内側から破壊に追い込んだあの人を思い出してほしい。)

「あの時やめてよかったと思う。ポップミュージックは基本的に若い人たちのものであって、50歳代の人たちのものではないと思うんだ。50歳の人でも続けている人がいるのは知っているけど、それはあんまり考えじゃないと思うな。」

インターネット上ではマルコムはバンド解散後、パリで庭師になったという噂があったが、それはティムが作り上げたジョークに過ぎないという。実際、彼は人生で一度も庭仕事をしたことがない。ジョンとゲイリーが解散後どうなったかは話の中に出てこないが、マルコムはジョンとは年に2、3回会う程度しか連絡を取っていないという。ティムとゲイリーとは5年間会っていないそうだ。ジョンはロンドンの音楽出版社BMGで働いており、ゲイリーも書籍の出版社で働いていると思われ、彼の知る限り、彼らはもう音楽はやっていないようだ。

"Banking, Violence... "のセッションで録音されたマッカーシーの曲は2曲あるがミックスされなかったのでリリースされることはなかった。

「ジョンとティムはコンピレーション(1996年にチェリー・レッドからリリースされた"That's All Very Well But...")に収録するほどではないと思ったんだ。ひとつは"Who Will Rid Me Of These Turbulent Proles ?"という曲だった。僕はこの曲にとても満足していて僕が書いた歌詞の中でもベストなものの一つだった。録音はしてあるんだけど残念ながらミックスはしていないからちょっとラフな感じだね。もうひとつはティムが作ったジョーク・ディスコ・ソングの"You Had To Go And Open Your Big Mouth"という曲。レティシアが数行歌っている。これもかなりラフな状態だよ。」

マニック・ストリート・プリーチャーズといったバンドがポップミュージックにおけるマッカーシーの立ち位置を引き継いだと考える人もいるのでマルコムに彼らのことをどう考えているか聞いてみた。

「マニック・ストリート・プリーチャーズのことはあんまりよくは知らないんだ。でも、もちろん彼らがカバーした"Charles Windsor"と"We Are All Bourgeois Now"の2曲は聴いたことがあるよ。マッカーシーと同じようなアティテュードを持つグループはあまり見当たらない気がする。でも多分僕が知らないだけかもしれないね。」

また、最近はレコードをほとんど買わなくなり、音楽が自分にとって意味を持たなくなったとも語っている。

「クラシックのレコードはたまに買うよ。バッハが好きなんだ。あと妻がマドンナの最近のアルバムを買ったのでそれをよく聴いてるよ。」

音楽が意味を成さなくなったとは言う物の、マルコムは歌詞が自分にとって最も重要であることに変わりはないと言い、うまくいけば2002年に出版される本を書いたと教えてくれた。

「この本は、ある女性が住んでいる町のあちこちで異常な量の犬のフンを発見する話なんだ。なぜこんなに多いのか、そしてそれはどこから来たのか、その原因を探っていくという話なんだ。この話はパリで暮らしていた時に思いついたんだけど、パリという町はガイドブックには載っていないけれど世界一犬のフンが多い街なんだ。」

彼は今、2作目も執筆中だ。ところで彼が尊敬する作家は?

「ベルトルト・ブレヒト、ヤロスラフ・ハシェク、カール・マルクス、シェイクスピア、ディドロかな。」

残念なことに彼は自分の本の中のみでしか自分の意見を主張する機会がないそうだ。

意見といえば、15年前と政治的な思想・意見は変わっていないのだろうか?

「ええ。自分の周りで起こっていることと相互作用をさせて自分の思想・意見を発展させるようにしているんだ。世の中は変わっているのだから15年前と同じことを繰り返すのは愚かなことだよ。スウェーデンの極左政党はどうか知らないけど、フランスやイギリスの政党の間違いはあたかもその間に世界が変わっていなかったかのように昔の路線を繰り返すことだよ。」

「今日、最も重要なことは一般的な意味での政治、つまり人々は世界を変えることができるという考え方の下に立ち上がることだと思うんだ。例えばシアトルでデモをしている人たちと僕とは何の共通点もない。彼らは世界を前進させたいのではなく後退させたいのだと思う。彼らは進歩や理性というものに賛成しているわけではない。全く逆だ。もし私が今日曲を書くとしたら、ホメオパシーや環境保護主義者の破滅的な考え、動物の権利、そして理性と人類のために立ち上がるようなテーマの曲を書くだろうね。」

マルコムがマッカーシーのために書いた歌詞の中で、彼はしばしば反資本主義というテーマを語っており、ある曲ではほとんど行き過ぎた表現をしている。その曲は"Use A Bank I'd Rather Die(銀行を利用する位なら僕は死ぬ)"という曲で、アルバム"Banking, Violence..."に収録されている。そこで彼は「現金は使わない ノーノーノー 現金で手を汚すようなことはしない」と歌い、お金をチャリティーに回そうと言っているのである。この主張は本気なのか、それとも演技をしているだけなのか、ちょっと気になったので聞いてみた。

「マッカーシーの歌は、ほとんどすべてが歌の中での架空の登場人物が歌う、という形が取られている。歌の中で表現される心情にはしばしば賛同できないことがあり、実際にはまったく逆の心情だったりもする。"Use A Bank I'd Rather Die"を一例に挙げると、昔は、僕たちが妥協していると非難されることがあったんだ。政治的な主義主張を持っている人はいつでも妥協できるわけがないとみんな思い込んでいるんだよね。でもこの意見にはまったく同意できないね。もし、妥協することによって自分の一般的な立場がより良い方向に進むのであればそれは良いことかも知れない。あの歌は多かれ少なかれそういうことを歌っているんだ。この歌の登場人物はすべての妥協を拒み、その結果、あらゆる絶望的な矛盾に陥ってしまうんだ。

そういえばマッカーシー時代に稼いだお金はどうしたのか聞いてみた。

「残念ながら、あまりもらえなかった。みんな失業手当をもらってマッカーシーのお金で本やレコードを買ったりしていたんだ。誰からも前金はもらえなかった。でもチェリー・レッドが僕らのアルバムを全部再発売してくれたから今でも少しは金をもらっているんだ。でもご想像の通り、これはたいした額じゃないんだ。マニック・ストリート・プリーチャーズのカヴァーで得られるお金は自分たちのレコードから得られるものよりずっと多いだろうね。」

最後にマルコムに最近はマッカーシーを聴くことがあるかと尋ねた。

「あまり頻繁には聴かないよ。でも聴いた時には「もっとこうすればよかった」とか「あそこをこう変えればよかった」と後悔することがある。でも、曲の中には欠点もあるけど、とてもエキサイティングなものもあると思う。時々、忘れていた面白いセリフを聞いて笑ったりもするんだ。」

そして再結成の可能性は非常に低いと思われるが...。

「これは君もそう思うように非常に可能性の低いシナリオだね。昔のグループが再結成するのはちょっと悲しいことだと思うんだ。セックス・ピストルズ、バズコックス、ザ・ビートルズなどね。再結成をするのはお金のためか失われた青春を取り戻すためか、どちらかだと思う。いずれにせよ、ちょっと哀れなことだよ。」

「マッカーシーの再結成はちょっとありえないね、そう思わざるを得ない。そしてその必要もない。バンドは存続中に3枚の素晴らしいアルバムと数多くの素晴らしいシングルを録音していて、それで十分だと思う。でも、親しい人たちは何か新しいものを聴きたいと思うかも知れないよね...。

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